曹操許田射鹿

曹操 許田に鹿を射る

かくて曹操は勝ち戦を治め、玄徳と共に許都に帰りけるが、ある日曹操己の威勢を試みんと天子に田猟を進めけるに、帝・玄徳・関羽等を引き具し出御ありしに、曹操は帝と馬の轡をならべ郊野のほとり迄進みけるに、一匹の大鹿飛び出だしけるに、帝「それ射とめよ」と仰せに曹操畏まり、帝の金箭・銀鏑を拝借し鹿の平首を射留めけるに、百官みな「帝自から射たまう」と心得、祝辞を申し上げしに、曹操馬をすすめ帝の前に立ち塞がり祝辞を迎いけるより、董承はじめ百官各々あきれ、其の仕方をうらみける。曹操が横恣を深く御歎きあり。太傅董承を召して玉帯の中へ詔書をぬい込みしを、何となく拝領しければ、董承家にかえり玉帯を疾くと拝見にしけるに、裏の中に血にて「曹操を亡ぼし朕が左右の心を安んずべし」との密詔なりければ、董承涙をながし、ひそかに曹操亡ぼさんと計りしこそ理わりなり。ある日曹操、玄徳を招き四方の咄に英雄を論じける。折しも天俄俄かに大雨雷鳴したるに、玄徳わざと持ちたる箸をおとしたるを、曹操計ごととは露知らず、玄徳の膽なきものと疏んじける。

曹操許田射鹿

斯て曹操ハ勝ち軍を治め、玄紱と共尓許都尓帰りけるが、ある日曹操己連の威勢を試ミんと天子尓田猟を進めける尓、帝玄紱関羽とうを引具し出御ありし尓、曹操ハ帝と馬の轡をならべ郊野の本とり迠進ミける尓、一匹の大鹿飛出しける尓、帝夫連射とめよと仰せ尓曹操畏まり、帝の金箭銀鏑を拜借し鹿の平首を射留ける尓、百官ミな帝自から射多満ふと心得祝辞を申上し尓、曹操馬を春ゝめ帝の前尓立塞がり祝辞を迎ひけるより、董承者じめ百官各あきれ、其仕方を惡ミける。曹操が横恣を深御歎きあり。太傅董承を召して玉帶の中へ詔書をぬい込しを何となく拜領しけ連ハ、董承家尓かへり玉帶を疾と拜見にしける尓、裏の中尓血尓て曹操を亡本し、朕が左右の心を安ん春べし、との密詔なりけ連バ、董承涙をながし、ひそか尓曹操亡本さんと計りしこそ理ハりなり。或日曹操、玄紱を招き四方の咄尓英雄を論じける。折しも天俄尓大雨雷鳴し多る尓、玄紱王ざと持多る箸を於とし多るを、曹操計ことゝハ露知春、玄紱の膽なきものと疏んじける。