玄紱跳馬越壇渓

玄徳 馬で壇渓を跳び越える

劉玄徳は汝南没落の後は、劉表を頼みておわせしけるに、劉表が大将張虎・陳生の二人反逆を企てければ、玄徳・関羽張飛とか馳せ向かい打ち亡ぼせしおり、張虎がのりたる馬千里の駿足なりと玄徳称嘆しければ、趙雲ききもあわず鎗をのとり只一合に斬りをとし、其馬を奪て玄徳に献す。後、劉表此馬を見て賞美しければ、之を劉表に送る。蒯越見て「此馬眼の下に涙痕ありて、額の辺に白点あり、名づけて的盧といふ。乗人に祟りをなす」と云いければ、劉表次の日玄徳を招き此馬をかえしけり。茲に劉表が妻の兄蔡瑁といえるかの兼て玄徳討んと計ごとをめくらし、酒宴にかこつけ襄陽の集會に玄徳を招きしかど伊籍といふ者、此密計を告ける。玄徳おどろき庭につなげる的盧に乗て走り玉ふ。蔡瑁五百騎にて追掛き多るに、前に檀渓といえる急流白波天に漲る。玄徳馬の頭をなで「的盧、的盧、今吾に祟りをなすか、つとめ与や」といい玉へは、一躍して向の岸へ上り、二里斗り来て宿を求め亭主の名を問へは、司馬徽といふ。しきりに時勢を論す。将軍若し伏龍鳳雛をえ多満へは、天下を治めしむるといいければ、伏龍鳳雛の名を問に、笑てこ多へすけり。

玄紱跳馬越壇渓

刘玄紱ハ汝南没落の後ハ、刘表を頼ミてお者せしける尓、刘表が大将張虎陳生の二人反逆を企てけ連バ、玄紱関羽張飛と可馳向ひ打亡不せしをり、張虎がのり多る馬千里の駿足なりと玄紱称嘆しけ連ハ、趙雲きゝもあハ春鎗をのとり只一合尓斬りをとし、其馬を奪て玄紱尓献春。後刘表此馬を見て賞美しけ連バ、之を刘表尓送る。蒯越見て此馬眼の下尓涙痕ありて、額の辺尓白點あり、名づけて的盧といふ。乗人尓祟をな春と云け連バ、刘表次の日玄紱を招き此馬をかへしけり。茲尓刘表が妻の兄蔡瑁といへるかの兼て玄紱討んと計ごとをめくらし、酒宴尓かこつけ襄陽の集會尓玄紱を招きしかど伊籍といふ者、此密計を告ける。玄紱おどろき庭尓つなげる的盧尓乗て走り玉ふ。蔡瑁五百騎尓て追掛き多る尓、前尓檀渓といへる急流白波天尓漲る。玄紱馬の頭をなで的盧々ゝ今吾尓祟をな春か、つとめ与やといゝ玉へハ、一躍して向の岸へ上り、二里斗り来て宿を求め亭主の名を問へハ、司馬徽といふ。志きり尓時勢を論春。将軍若し伏龍鳳雛をえ多満へハ、天下を治めしむるといゝけ連バ、伏龍鳳雛の名を問尓、笑てこ多へ春けり。