張飛睨返八十万勢

張飛八十万の勢を睨み返す

魏の大将文聘兵を卒ひ趙雲を追いかけ長坂橋に進み、見れは張飛只一人橋のうえに馬をたて、丈八の矛を横たへ、髪の毛は倒さまにたち、眼さかたち怒れる。鬼髯左右にわかれ立ちたるにかさね、悪鬼羅利もこれには、いかでかなふまじ、文聘心のうちにうたがひ生じ、敢えてすすまず。魏の大将曹仁張遼許褚いずれも勇将きたれども、この有りさまを見て進むものなし。曹操これをききうかがい見るに、張飛もこれ曹操自ら来たりしに、大の眼をいからし破れ鐘のごとき声を振りたて見れば「燕人張飛なり、きたつれ勝負せよ」と呼ばわったり。曹操諸将にむかひて「張飛は世におそろしき大将なり。早く退ぞくべし」と軍中いろめき、われ先にと軍勢そうくずれとなりければ、張飛ひとり喜こび、長坂橋を切りをとし引き退ぞく。曹操は橋の落たるを聞き、計ごとなきを知り橋を渡して進撃したり。其後、曹操より呉の国へ玄徳を討たんといい送りたるに、呉将魯粛・呉主孫権にまみへ、これ必ず害あるべし。玄徳とよしみを通づべし。

張飛睨返八十万勢

魏の大将文聘兵を卒ひ趙雲を追かけ長坂橋尓進ミ、見連ハ張飛只一人橋のうへ尓馬を多て、丈八の矛を横多へ、髪の毛ハ倒しま尓多ち、眼さか多ち怒連る。鬼髯左右尓王か連立ち多る尓かさ寝、惡鬼羅利もこれ尓ハ、いかでかのふまじ、文聘心のうち尓う多がひ生じ、敢て春ゝま春、魏の大将曹仁張遼許褚いづ連も勇将き多れども、この有さ満を見て進むもの奈し。曹操これをきゝうかゝび見る尓、張飛もこれ曹操自から来りし尓、大の眼こをいからし破れ鐘のごとき声を振多て見れハ、燕人張飛なり。き多つ天勝負せよと呼王つ多り。曹操諸将尓むかひて張飛は世尓おそろしき大将奈り。早く退ぞくべしと軍中いろめき、われ先尓と軍勢惣く春連となりけ連バ張飛ひとり喜こび、長坂橋を切りをとし引退ぞく。曹操ハ橋の落多るを聞計ことなきを知り橋を渡して進撃し多り。其後曹操より呉の國へ玄紱を討たんといゝ送り多る尓、呉将魯粛孫権尓まミへ、これ必須害あるべし。玄紱とよしミを通づべし。