三国志ファンミーティングに参戦して

朝から快晴とまではいきませんでしたが、外出するのに過ごしやすい落ち着いた天気となった11月22日(日)に、福岡県福岡市早良区ももちパレスにて開催された「三国志ファンミーティング」に参戦してまいりました。このイベントは三国志や、あらゆるジャンルの三国志作品の魅力を語り合うイベントで、山口県光市の三国志城博物館にて開催されていた(もしかしたら今後もあるかもしれませんが…)「三顧会」の流れを汲みます。

もちろん「三顧会」とは趣が異なり〝全ての意見を尊重する〟という前提で、参加者さんは自由に席に座り、個々が好きな人物やその魅力、また「実は…」なエピソードを自由に発表しました。開催時間は10時〜15時まで5時間でしたが、アットホームな雰囲気の中で様々なことを自由に発言し、他の参加者さんとの意見交換や交流ができたため、時間が流れるのは非常に早くあっという間に終わってしまったかのようでした。

まずは10時頃に、順に簡単に自己紹介を行い、演義の年表を用いて演義の復習を行いました。その後、「三国志タイムライン〜その時歴史が動いた〜」ということで、好きな人物や名場面等の自分が語りたいエピソードを傅僉付箋に記入し年表に貼り付けて発表が行われました。書かれた内容は董卓曹操、武安国、呂布、高順、公孫瓚、賈詡、袁紹劉備黄蓋五斗米道、七星剣、兀突骨等など。やはり年表に付箋を貼り付けるということで、ある年代に集中し、いつ頃人気があるのか視覚的にも捉えることができたため、非常に面白く感じました。今回は1.反董卓連合前後、2.赤壁の戦い前後、3.南征前後に集中しました。
ちなみに私が書いたのは「七星剣」「袁紹」です。まずは七星剣について。

七星剣は曹操董卓暗殺をするために、司徒王允より授かった宝剣です。ほとんどの三国志作品ではそれは包丁くらいの長さの短刀として描かれていますが、三国志演義葉逢春本には以下の記述があります。

曹操曰近日進身以事董卓者實有意以圖之今卓甚愛(曹)操有事必共議之聞司徒有七寳刀一口願借與曹操入相府去刺殺之操萬死無恨王允曰孟徳果有是心漢天下幸甚(曹)操遂言誓於(王)允前(王)允取七寳刀與(曹)操其刀長七尺金寳嵌飾極有鋒利(曹)操帯之衆官皆散(曹)操来曰…(中略)
(董)卓曰吾有西涼州進到良馬吾児可親去選一疋来賜與孟徳(曹)操思曰董卓合死意欲抜刀懼(董)卓有力不敢手下(董)卓胖大不奈久坐遂倒身而𥃨轉身背却曹操曰此賊當休急撃宝刀在手(董)卓回看着衣鏡中(曹)操抜刀出鞘急回身曰孟徳何為呂布已牽馬到閣外(曹)操刀已出鞘就倒轉刀(攻略)
【『葉逢春本』曹操謀殺董卓

つまりあの七星剣の長さは身長七尺の曹操と同じであり、かつ曹操は抜刀して董卓を刺殺(というよりも斬殺の方が表現としては適当か)しようとしていた、ということです。なお他のエディションの演義には七星剣の長さは削除されており、残念ながら通行する毛宗崗本や、かねてより日本で愛されて続けていた李卓吾本では伺い知ることができません。

さて後者の袁紹についてですが、こちらも七星剣と同様に長さに関するネタをお話いたしました。

袁本初公卿子弟,生處京師,體長婦人。
【魏書卷十六 鄭渾傳引『漢紀』】

大意は、袁紹は公卿の子弟で都で生まれ、体長は婦人なみだ。ということが記されている。

参考までに正史三国志後漢書では、身長に関する記述は次のものがあります。

身長七尺五寸,垂手下膝,顧自見其耳。
【蜀書卷二 先主傳】

(陳)化字元耀,汝南人,博覽衆書,氣幹剛毅,長七尺九寸,雅有威容。
【吳書卷二 吳主傳引『吳書』】

(太史)慈長七尺七寸,美鬚髯,猨臂善射,弦不虛發。
【吳書卷四 太史慈傳】

陳武字子烈,廬江松滋人。孫策在壽春,武往脩謁,時年十八,長七尺七寸,因從渡江,征討有功,拜別部司馬。
【吳書卷十 陳武傳】

(朱)然長不盈七尺,氣候分明,內行脩虜,其所文采,惟施軍器,餘皆質素。
【吳書卷十一 朱然傳】

これらより身長が記されている人物は七尺五寸以上、七尺未満であることから、七尺五寸以上は大柄な人物で、七尺未満の人物は小柄であることが推測されます。さて袁紹の身長は徐盛女性並とあります。そこで女性の身長について数字を拾うために、後漢書に目を移します。

後漢書皇后紀は皇后に関する事柄が記載されております。もちろん身長に関する記述もあります。上と同様に該当箇所を以下に引用します。

身長七尺二寸,方口,美髮。
後漢書帝紀卷十上 明紱馬皇后】

后長七尺二寸,姿顏姝麗,絕異於眾,左右皆驚。八年冬,入掖庭為貴人,時年十六。
後漢書帝紀卷十上 和熹訒皇后】

靈思何皇后諱某,南陽宛人。家本屠者,以選入掖庭。長七尺一寸。
後漢書帝紀卷十下 霊思何皇后】

女性で史料に身長に関する記述がある、ということは特筆すべき事柄であるため、身長が記述されているのも大柄だったからだと考えます。つまり七尺一寸以上の女性は大柄で、それ七尺以下が平均的な身長だと思われます。ようやく袁紹に話を戻します。袁紹の身長は女性並ということですので、上のことを踏まえると七尺よりも小さかったのではないか、と考えられます。これまで曹操がチビであることを散々ネタにされていたため、無意識のうちに袁紹曹操よりも大きいというイメージが持たれていたと思いますが、袁紹もチビです。
官渡の戦いは北のはしっこで、チビ同士が覇権争いのために殴り合っていたという構造だったということになります。なかなかシュールですね。



こんな感じで各々が自由に人物やエピソードを話しきったところで昼休憩となりました。もちろん休憩時間でも口を開けば三国志のことばかり。徐庶について話をした記憶しかありませんが…

さて昼休憩が終わり、12時50分より研究発表「国内の関帝事情」と題して、日本に存在する関帝像について、1時間も延々と発表させていただきました。今回の報告では昨年2014年9月に実施した臨済宗霊芝山 大興寺黄檗宗大本山 萬福寺関帝像拝観ツアーを実施したことをきっかけに研究・調査を始めたことや、この一年で中華街だけではなく国内各地の黄檗宗の寺院にも関帝が安置されていること、また長年続いた大本山の誤認により今も末寺では華光菩薩を関帝と誤認して安置しているといった内容を、これまで実際にお伺いして見聞した事柄を中心に、撮影した100枚以上もの画像を用いながら報告いたしました。またイベント終了後に訪問を予定している千眼寺についても、予習という形で併せてお話いたしました。千眼寺については、このあと岡崎住職より多分お話を伺うのであろうなと直感したため、話し過ぎないようにざっくりとした概略だけ紹介させていただきました。


さて発表が終わり、間髪を入れず次のプログラムへ。「どの本が一番読みたくなったか?」を決める知的書評合戦ビブリオバトルが始まりました。ルールは公式ルールが適用されました。

【公式ルール】

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  3. それぞれの発表後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準に投票を参加者全員で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』(今回は覇本)とする。

最初は一条さんにより竹下 ひろみ(翻訳)『南遊記』(エイチビー・ジャパン 1988)が紹介されました。この本は華光天王が大暴れし天界を騒がせ物語で、自由に筆を走らさせすぎて荒唐無稽な内容とのこと。もちろん題より直感する方がいらっしゃるかもしれないが、仏教と道教に関わる戯曲・雑劇と神話伝説に基づいて編纂された「四遊記」のひとつです。四遊記とは我が国で知名度が非常に高い『西遊記』をはじめ『東遊記』『南遊記』『北遊記』の総称です。

南遊記 (四遊記 2)

南遊記 (四遊記 2)

二番手は孔斗さんが桐谷 正『張遼』(PHP文庫 2008)を紹介されました。本書は張遼の生涯を伝記の様に書かれた小説で、合肥の戦いから執筆され、下邳の戦い以後を年代を追って回想していく、という内容だそうです。張遼好きには堪らない一冊ではないでしょうか。

張遼 (PHP文庫)

張遼 (PHP文庫)

三番手に、まめさんが中村 昂然『通俗二十一史第六巻 通俗続三国志』(早稲田大学出版部)、尾田 玄古『通俗二十一史第七巻 通俗続後三国志』(早稲田大学出版部)を紹介されました。内容は蜀滅亡後に、蜀を支えた五虎将軍を中心とした子孫たちが、魏の子孫たちを討ち、復讐を果たしていくそうです。

そしてネズミさんが杜康 潤『孔明のヨメ。』(芳文社 2012〜続刊中)を紹介されました。特に印象的だったのは諸葛亮ではなく、作中に登場する徐庶の母親がとても綺麗で、これほどまで美しく描かれている作品は他にはないそうです。

孔明のヨメ。 (1) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (1) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (2) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (2) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (3) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (3) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (4) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (4) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (5) (まんがタイムコミックス)

孔明のヨメ。 (5) (まんがタイムコミックス)

最後に私が井上泰山『三国劇翻訳集』(関西大学出版部 2002)を紹介させていただきました。ここ数年で、正史の記述が正しい、演義が…といったいざこざを頻繁に目にすることがありましたので、今回は正史や演義に捕われず、それ以外(講談や雑劇、民間伝承など)の三国志作品の面白さや魅力を伝えたいと思い、本書を紹介しました。例えば本書に集録されている「周公瑾、志を得て小喬を娶る(娶小喬)」では、孫権大喬を娶り周瑜小喬を娶るのですが、周瑜は文武に優れているものの、彼自身の貧苦の境遇に嘆きます。根本から酷くネガティブになった彼はどうせ小喬にアプローチを行ったとしてもどうせ巧くいくハズがない、失敗する。失敗するなら何もしなければいい、と鬱陶しいほどぐずつきます。そこで彼と義兄弟の契りを結んでいた義兄魯粛が、そんな彼を見るに見かねて二人のキューピットを引き受ける。といった演義にはもちろんない演目があります。

三国劇翻訳集

三国劇翻訳集

設定時間終盤あたりに聴衆側より\お高いんでしょ〜?/と声が入り、ビブリオバトルなのに流れが大きく変化し通販の様な発表になってしまっていたのが、発表を見ていて新鮮味があったとともに面白く感じました。発表後に挙手で紹介された本の投票と集計を行われましいた。結果は『孔明のヨメ。』『三国劇翻訳集』が同率で一位となりました。

最後に今回のイベントの主催である一条さんが終わりの挨拶を述べられ、ほっこりとした雰囲気のまま無事に閉幕しました。

今回の「三国志ファンミーティング」に参加して感じたことは、ある程度のルールを設定・明示し、当たり前の事であるが自分の意見を押し付けない・他人の考えを否定しなければ良い雰囲気の中で存分に楽しめるのではないか、また良い雰囲気をが作れるからこそ自由に発言することに繋がっていたのではないかと思いました。三顧会を汲むということでの開催でしたが、何度も三顧会にも参加させていただいたのですが、さすがに前夜祭で楽しみ、夜通しで飲んで遊んで三国志を語り、次の日にイベントを満喫する三顧会と比べると、さすがに三顧会が特殊なため全然及ばないと思いますが、三顧会と同様の魅力や居心地の良さを感じることができました。
また第二回の開催がされるのでありましたら、是非とも駆けつけたい所存です。

最後になりますが今回各地より参加された皆さま、そして企画や準備をしてくださいました主催の一条さん、楽しい時間をありがとうございました。再び同年同月同日に楽しまんことを!




千眼寺については別の項で記したいと思います。