「菊慈童」観劇(2017年8月19日)

「初心者のための上方伝統芸能ナイト」は伝統芸能を楽しみながら、しかも噛み砕いて説明・解説をされるため、1つ1つの演目に興味を持ちながら知見を広げることのできる非常に素晴らしい場である。

まず私事になるが、上方伝統芸能に触れる機会がこれまでほぼ皆無であり(小学生の頃に夏休みを利用して毎年文楽だけは観に行ったが…)、それらが持つ歴史や物語、演者さん等々、そのほとんどを認識・理解できていない。加えて観たとしてもテレビやネットというフィルターがかかった映像しか観たことがなく、実際に生で演じられているモノのを目にしたことがなかった。
今回は能楽「菊慈童」が山本能楽堂にて催されるイベント「初心者のための上方伝統芸能ナイト」にて公演されるということで、2017年8月19日(土)に観に行った。18時開演、17時半開場だったため、少し余裕を持たせて17時15分に能楽堂に到着。西陽が差す中すでに多くの方が能楽堂前で列をなして開場を待たれていた。

スタッフさんの指示に従い待つこと10分余り、ついに開場時間となった。中に入ると当然のことながら国語の教科書や便覧に掲載されている写真の通りの舞台が目の前に現れた。本舞台の床は鏡板に描かれている松の絵が映るほどピカピカに磨かれている。つい随所を見入ってしまう。

座席は正面席、ワキ、2階席(いずれも自由席)が設けられていた。初めての鑑賞なので分からない事が多いため細部まで鑑賞したいことと、せっかくなのでいい席で楽しみたいと思い正面席を事前に予約した。

今回は「菊」をテーマに以下のプログラムで進行していった。

司会:桂ちょうば

18時00分 出演者によるトーク
18時15分 浪曲春野恵子「お菊と播磨」
18時35分 落語:桂ちょうば皿屋敷
18時55分 体験コーナー(歌舞伎):片岡千壽
19時15分 能:山本章弘ほか「菊慈童」
19時35分 閉会

まずは司会の桂ちょうばさんが、その後に出演者の春野恵子さん、片岡千壽さん、山本章弘さんの3人が登場されトークが始まった。1.浪曲と落語は同じ題材なので聴き比べて楽しんで欲しい、2.初めて歌舞伎役者がここ(山本能楽堂)の舞台に立ったので、ついに全ての伝統芸能が披露されることになる、3.鑑賞するにあたり、「あ」あくびをしない、「い」いびきをかかない、「う」うろうろしない、「え」笑顔で観て欲しい、「お」おしゃべりをしない、の「あいうえお」は守って欲しい。4.能は観てると眠たくなる、演者もウトウトとしてしまいそうになる、5.能は理解するのではなく感じるものである、6.伝統芸能をより深く知りたいのならば習うことが近道、6.「初心者のための上方伝統芸能ナイト」はデパ地下の試食コーナーのようなモノで、各演目の美味しい所を少しずつ食べることができる(「特に面白い部分」が15分ずつダイジェストで上演されるため)等々…伝統芸能ナイトの魅力や公演の見所、そして楽しみ方について冗談を織り交ぜながら楽しく聞くことができた。能はどのように観るべきなのか以前から気にはなっていたが、「考えるのではなく感じるもの」とブルース・リーの「Don’t think. FEEL!(燃えよドラゴン)」に通じるモノがあると聞き非常に驚かされた。今回この言葉があったお陰でかなり肩の力を抜いて感じることができた、と思う。


浪曲、落語、体験コーナーについては割愛して、能の感想を記したい。
たった15分の短い上演であったが、能の面白さについて色々と詰まっていた。まずは地謡の詞。正直言って何を言っているのか分からなかった。まるで初めて耳にした外国語のようであった。何度か通えば耳が慣れるのかもしれないが、音を聞いて何が語られているのか理解することはまず無理であろう。今回は字幕に詞が投影されていたため、内容を理解することができたが、字幕がなければ異世界で漂流するところであった。よくそれに耳を傾けると、どうやらをシテが慈童で仙薬を飲んだことで七百年も生きている、という説明がされていたため、どうやら冒頭の場面が演じられているようである。