『山城名勝志』愛宕郡部十三下における「女」の字形について

今回は以下の記事の続き。

足利尊氏霊夢 - 尚書省 三國志
http://d.hatena.ne.jp/kyoudan/20171211/1512950466

先述したように、霊芝山大興寺の記述において「女来告天告」に見える「女」が、実は「如」ではないかと指摘をいただいた。それを明らかにすべく、『山城名勝志』において「女」及び「女を含む字」がどのような字形をしているのか、また筆使いに揺らぎがないかのみに焦点を当て、まずはその一文を掲載する『山城名勝志』愛宕郡部十三下の記述のみを、2017年12月11日(月)〜16日(土)の期間目視にて確認作業を行った。

なお使用した『山城名勝志』の底本は立命館大学アート・リサーチセンター所蔵(SB4725)、及び国文学研究資料館所蔵(826-2)pp.857-899の2種類である。画像資料については、ノイズが少なく画像が非常に鮮明である前者を用いた。

はじめにこの巻の集計結果について記したい。今回注目した「女」及び「女を含む」該当漢字は計19種類、全121字であった。その分布表と内訳は以下の通りである。
分布表の行の項目についてであるが「ページ」はページ番号、「則」はそのページの則、「文中」は本文中に記される「女」及び「女を含む字」の数、「女」は女の字のみの数、そして「崩」は崩し字で記した文章に用いられていた該当漢字の数を示す。

使用された文字とその数はこのようになった。
 「女」23字 
 「安」40字 「如」25字
 「始」7字 「姫」5字 「按」3字
 「妙」「媒」「樓」「案」各2字
 「妹」「接」「凄」「汝」「婦」「妍」「姓」「奴」各1字

またこの121字のうち崩し字で表記されたものは11字で、「如」が4字、「姫」が3字、「女」「安」「汝」「婦」は各1字ずつであった。これらについては画像資料を参照されたい。

この画像資料に関して全画像をナンバリングをしているため、「077-61b101」を例に少しだけ解説をしておきたい。


まず冒頭にある数字(ハイフンよりも前の3桁)が通し番号で、001から順に121までを割り当てている。つまり通し番号だ。その次の数字2字と半角英字はページ数と則を表す。赤く示している箇所はその漢字が「女」かそれ以外の字であることを区別するために0か1で示し、もしその字が前者であれば「0」を、後者であれば「1」とする。最後の2桁がそのページにおいての何文字目かを表す。

最後に、この巻十三下だけ見ると崩し字は上に挙げた11文字しかなく、うち2字(「女」「汝」)が大興寺の問題のあの文に現れる。この2字を他の崩し字と比較しようにもわずか9字しかなく、加えて崩し字で記された「女」の用例がこれを除いては皆無であった。そのためデータとして非常に乏しく、比較しようにもできないという結果に至った。
残りの20巻28冊を今回と同様に1冊1週間ペースで確認作業を行っても遅くとも196日(≒6か月半)も要してしまい、その費やした時間に見合った成果や収穫が見込めないため、一旦確認作業は終了したい。

例の文は「女」ではなく「如来」の方が霊夢の傾向的にも文脈的にもしっくりくるため、これよりも古い文献資料や記述等が見つかるまで「ある夜の夢に如来告て云、今汝に百戦百勝の術を教えん」である!、と強く推していきたい。