『偽史と奇書が描くトンデモ日本史』を読んで

2017年1月に発売されたオフィステイクオー 著,原田実監修『偽史と奇書が描くトンデモ日本史』実業之日本社(じっぴコンパクト新書)。内容は『竹内文書』『上記』等の古史古伝から近年話題おなった『江戸しぐさ』まで、計42種もの偽書・奇書をガイドブックのように広く浅く紹介する。多くの方が感想で述べられていたが内容に間違いが多く、本格的な偽史考証を期待している方にとっては非常に物足りない内容となっている。

偽史と奇書が描くトンデモ日本史|実業之日本社
http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-11205-3

そんなガイドブックを読んでいると非常に興味深いことが書かれていたので、大興寺像について考える上でのヒントになるかもしれないと感じ、少しだけ紹介したい。

 中世から近世にかけては、鋳物師や木地師など様々な職人たちにより、その職業の由来を説明する「古文書」が作られた。それらは朝廷や幕府(鎌倉・室町・江戸)の要人によって発給されたと主張され、それぞれの職掌の利権を裏付ける内容となっていた。
 もちろん、それらの「古文書」はいずれも荒唐無稽な偽文書に違いないが、当時は公事(訴訟)の場でもそれなりの効力を発揮したのである。
 この種の「古文書」を持つ職能集団には、当時の社会で賤しいとされた職掌も含まれていた。彼らが朝廷なり幕府なりの貴人からお墨付きをいただいたことを説明するには、現実にありえないような荒唐無稽な物語を付与する必要があった。(略)
 偽書・奇書が書かれる直接の動機には、金儲けのため(例えば詐欺の小道具)、利権を確保するため、自分の先祖の家系を飾るため、国威発揚を目的としたものや陰謀論などの政治的プロパガンダ、「事実(と自分が信じるもの)」を後世に伝えるため、などがある。(略)
社会・文化の変わり目となるような激動期には新時代に対応するための新たな物語が求められがちとなる。
(pp.5-6)

日本では神仏分離廃仏毀釈といった宗教的な運動が幾度も起こり、仏教寺院や諸像等が歴史から消えてしまった。目的はどうであれ、奇書に像に関する記述があるのとないのでは、それによって被る影響の大きさや地域、または幕府より受ける待遇が変わってくるのではないかと、上の文章を読んでふと思った。
また自由に調べれるような環境にいないこととと、力量不足のため鎌倉〜江戸時代に成立した文献や資料に大好評像に関する記述が見付けれていないが、本書が示すように「物語が付け加えるられた」という可能性があるということを考慮に入れて、手掛かりを探していきたい。
足利尊氏関羽を祀った」「元から取り寄せた」という伝承を信じるならば、建長寺船天龍寺船で有名な寺社造営料唐船関係の資料に記述がされていそうなのだが…



正誤について
上に記したように本書は原田実氏の単著ではなく、某宝島社のように項目ごとに複数人のライターが執筆し、それを1冊にまとめられたものであろう。そのため所々にちょっとした間違いがあった。原田氏がTwitterにて誤りについて言及されていたので、以下に該当ツイートをまとめておく。

偽史と奇書が描くトンデモ日本史 (じっぴコンパクト新書)

偽史と奇書が描くトンデモ日本史 (じっぴコンパクト新書)

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

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