孔明博望波尓焼屯

孔明博望波に屯を焼く

曹操は玄徳が新野に在って、孔明をもちひ兵士を調練するよしをききて心悪くおもひ、諸大将をあつめ、玄徳征討のことを議しけるに、夏侯惇討手をこひける。戦いまけなば、それがし首をたてまつらんと謹んで軍令状をたてまつり、于禁・李典を副将として打ち立ちける。玄徳これをきき孔明に計ごとを問ひ玉へば、孔明手配をさだめ関羽張飛を呼び申しけるは、「博望坡といふところあり。関羽は千五百の兵をひいて林の内に隠れ、敵の半ばをうつべし。張飛は千五百の兵を引き安林の谷にかくれ、火の手の上を見て討って出よ」。関平劉封二人は焼き草を用意し待ちけるところへ、夏侯惇大軍をひきいて攻め来たり。趙雲が勢をひともみに敗り「勢をひに乗って新野城を破れ」と博望波の山路にかかりけるに、四方より火もえ出て散々に打なされ、夏侯惇のこりすくなにて、都をさしてぞ逃のびりける。曹操おおいに恐れ、このたびは自ら八十余万騎を卒ひて荊州へ發向す。

孔明博望波尓焼屯

曹操ハ玄紱が新野尓在て、孔明をもちひ兵士を調諫春るよしをきゝて心惡くおもひ、諸大将をあつめ、玄紱征討のことを議しける尓、夏侯惇討手をこひける。戦いまけ奈バ、そ連がし首を多てまつらんと謹んで軍令状をた多まつり、于禁委典を副将として打立ける。玄紱これをきゝ孔明尓計ごとを問ひ玉へバ、孔明手配をさ多め関羽張飛を呼び申しけるハ、博望波といふところあり。関羽ハ千五百の兵をひいて林の内尓隠連、敵の半をうつべし。張飛ハ千五百の兵を引き安林の谷尓かく連、火の手の上を見て討つて出よ。関平刘封二人ハ焼草を用意し待ちけるところへ、夏侯惇大軍をひきいて攻来多り。趙雲が勢をひともミ尓敗り、勢をひ尓乗て新野城を破連、と博望波の山路尓かゝりける尓、四方より火もえ出て散々尓打奈さ連、夏侯惇のこり春く奈尓て、都をさしてぞ逃のびりける。曹操おほひ尓恐連この多びハ、自ら八十余万騎を卒ひて荊州へ發向春。