先月、二階堂善弘先生より黄檗宗と曹洞宗の関係をより理解するための資料として野川博之『明末仏教の江戸仏教に対する影響』(山喜房佛書林,2016年)を教えていただいた。曹洞宗にとって黄檗宗の関わりが所謂「黒歴史」になっているそうで、一般的に流通している書籍などでは交流があったことや黄檗宗の影響を大きく受けた等々…そのような関係すら触れられてず、また曹洞宗側も徹底して資料を処分してしまったそうで、現在は黄檗宗との交流や教化があったことすら歴史の闇に葬られてしまっている。
かねてより個人的な関心として黄檗宗の将来とともに日本に伝わり、ごく一部の黄檗宗寺院にてお祀りされている華光菩薩像がなぜか各地の曹洞宗寺院でも置かれている事例がある。その多くは尊名を「華光菩薩」ではなく「大権修利菩薩」と誤ってしまっている。なぜ黒歴史なのか、なぜ黄檗宗特有の像が曹洞宗にもあるのか。それを紐解くための資料として本書を教えていただいた。その際に実物を目にしたが、目にすると読む気が失せてしまうような分厚さで、まさかの1000ページ超え。さらに重たく高額であったため非常に躊躇してしまったが、かなり綿密に調べられており参考になることが多かったため、そして黄檗宗の歴史についてより理解するために発注するに至った。
さて本書の目次はCiNii等では公開されていなかったため、せっかくなので書誌情報とともに以下に挙げたい。もし資料として購入等を検討されている方の参考になれば幸甚である。
全九章にもわたり、様々なことが論じられているため、読みごたえは抜群である。
・明末仏教の江戸仏教に対する影響 (山喜房佛書林): 2016|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027514028-00?ar=4e1f&lat=&lng=
目次
序(田中智誠)
はしがき
凡例
本書の概要序論(3)
第一章 伝記と著述(17)
- 序節(本論全体の構成および本章の概要)
- 第一節 先行研究
- 第二節 高泉の略伝
- 第一項 主要な伝記資料
- 第二項 高泉の主要な事蹟
- 第三節 黄檗三祖および宗内余師との道縁
- 第四節 主要著の概観
- 第五節 日本における接化の概観
- 第一項 三祖を継承した側面
- 第二項 高泉独特の破旧的側面
- 結語
第二章 渡日以前の思想的系譜(111)
- 序節
- 第一節 明末清初の福建仏教
- 第二節 黄檗三祖の同時代閩・浙高僧らとの接触
- 第三節 高泉の福建高僧らへの私淑および師事
- 第一項 高泉が私淑した福建の高僧諸師
- 第二項 如幻との道縁
- 第三項 蓮峰との道縁
- 第四項 為霖との道縁
- 第四節 いわゆる居士仏教との交流
- 結語
第三章 在来二大禅宗との交流(231)
- 序節
- 第一節 高泉以前の黄檗教団の在来二大禅宗との関係
- 第二節 妙心寺との関係修復
- 第一項 高泉の関山像
- 第二項 隠渓智脱への共感
- 第三項 その他の妙心寺関係者との交流
- 第三節 非妙心寺系諸派との交流
- 第四節 曹洞宗僧侶との交流
- 第一項 高泉の曹洞宗観
- 第二項 鉄心道印
- 第三項 桃水雲渓
- 第四項 卍山の代付批判
- 結語
第四章 教宗諸師および儒者との交流(291)
- 序節
- 第一節 一乗院宮真敬法親王
- 第二節 真言律宗諸師との交流
- 第一項 同時代の真言律宗の状況
- 第二項 天圭照周・湛慧周堅師弟
- 第三項 快円・真譲
- 第四項 本寂慧澂
- 第五項 その他の律師たち
- 第三節 真言宗僧侶との親交
- 第一項 真言宗接近の背景
- 第二項 運敞
- 第三項 雲堂
- 第四項 彦山亮有
- 第四節 浄土律僧侶師弟との道縁
- 第五節 儒者との交流
- 結語
第五章 『黄檗清規』の背景(415)
- 序節
- 第一節 明末戒律復興運動に関する先行研究
- 第二節 初期黄檗教団における戒律制定の動き
- 第三節 同時代の清規・戒律主義者への影響
- 結語
第六章 苦行の実践と日本への導入(541)
- 序節
- 第一節 中国仏教にみる苦行
- 第一項 主要な先行研究
- 第二項 初期黄檗教団における苦行の実践
- 第二節 焼身供養の諸形態
- 第三節 経典血書の実践
- 第一項 中国仏教における血書の起こり
- 第二項 高泉およびその門下の経典血書
- 第三項 他宗派僧侶の経典血書
- 第四節 掩関の実践
- 第一項 掩関の起こり
- 第二項 日本における掩関の歴史
- 結語
第七章 高泉の文字禅(619)
- 序節
- 第一節 徳洪『石門文字禅』の成立と後代への影響
- 第一項 宋代禅宗における「不立文字」の崩壊
- 第二項 文字禅の定義と先行研究
- 第二節 明末禅宗における文字禅への評価
- 第一項 達観真可の徳洪礼讃
- 第二項 蘊上達夫『集文字禅』
- 第三節 法語・詩文に見る高泉の文字禅観
- 第一項 復権における「文字禅」との出会い
- 第二項 同時代の福建高僧の文字禅観
- 第三項 「不立文字」との板ばさみと弟子への訓戒
- 結語
第八章 高泉の僧伝編纂(673)
- 序節
- 第一節 先行研究
- 第二節 黄檗列祖の僧伝編纂
- 第一項 費隠の『五燈厳統』
- 第二項 隠元の修史・詠史
- 第三項 則非の修史・詠史
- 第四項 独湛の往生伝編纂
- 第三節 高泉による僧伝の概要
- 第一項 僧伝作者への道
- 第二項 卍元帥蛮からの資料借り出し
- 第三項 『扶桑禅林僧宝伝』(正編)の特色
- 第四項 『続扶桑禅林僧宝伝』の特色
- 第五項 『東渡諸祖伝』の特色
- 第六項 『東国高僧伝』の特色
- 第七項 別表緒言
- 第四節 卍元師蛮の黄檗僧観
- 第五節 同時代の僧伝への直接的影響
- 第一項 真言宗の僧伝
- 第二項 『律苑僧宝伝』
- 第六節 間接的影響の認められる僧伝
- 第一項 尭怨『僧伝排韻』
- 第二項 祐宝『伝燈広録』
- 結語
第九章 高泉六言絶句の研究(793)
- 序節
- 第一節 六言絶句に関する先行研究
- 第二節 宝誌の六言詩とその信憑性
- 第三節 北宋・徳洪の六言絶句への熱意
- 第四節 明末における六言詩専集の成立
- 第五節 明末禅僧の六言詩製作
- 第六節 高泉六言絶句の概観
- 第一項 六絶作者としての高泉の詩風
- 第二項 『仏国詩偈』に見る六絶作例
- 第三項 『洗雲集』に見る六絶作例
- 第四項 『洗雲集』以降の六絶作例
- 第七節 運敞『瑞林集』に見る六言絶句受容
- 第八節 中国禅僧の遺偈に見る六言詩
- 結語
結論(901)
附録 高泉僧伝の細目(909)
- (一)『扶桑禅林僧宝伝』細目
- (二)『続扶桑禅林僧宝伝』細目
- (三)『東渡諸祖伝』細目
- (四)『東国高僧伝』
主要参考・引用書目(991)
あとがき(1017)
一読するにはどれほどの日にちを要するのか見当すらつかないが3月末までを目標にしたい。先述したように黄檗宗と曹洞宗の関係について興味があるため、まずは三章と五章をゆっくりとページを繰りながら理解していきたい。
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- 作者: 雲棲しゅ宏,荒木見悟,宋明哲学研討会
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