仙石泰山,夢枕獏『古寺巡礼京都19 萬福寺』(2008年3月6日)

京都に所在する数多の名刹を1寺ごとに取り上げ、カラー写真をふんだんに掲載し、歴史や文化、僧、伝統などを紹介する「新版古寺巡礼京都シリーズ」。その19番目に刊行されたのが仙石泰山,夢枕獏『古寺巡礼京都19 萬福寺』(2008年3月6日)である。萬福寺の概要が幅広くコンパクトにまとめられており、加えてガイドブックには掲載されていない事についても言及されるため、非常に使い勝手がいい一冊である。本書の内容紹介文と目次は以下の通りである。

目次
黄檗宗あれこれのこと 夢枕獏/著
口絵カラー 石川登志雄/解説,中田昭/写真
この世の中、捨てる物は何一つない 仙石泰山/著
黄檗萬福寺の歴史 「一杯一銭」黄檗禅の道 高野澄/著
非僧非俗 売茶翁高遊外の生涯 村井康彦/著
萬福寺文学散歩 蔵田敏明/著
黄檗文化について 大槻幹郎/著
華僑のお盆「普度勝会」 住谷瓜頂/著
萬福寺文化財 石川登志雄/著

京洛の巽、妙高峰の麓に中国風の伽藍が整然とたたずむ黄檗萬福寺は、日本三禅宗黄檗臨済・曹洞)の一つ黄檗宗大本山であり、専門道場もおかれている。萬福寺では、儀式作法は明代に制定された仏教儀礼で行われ、毎日読まれるお経は黄檗唐音(明代南京官話音)で発音され、明代そのままの方式梵唄を継承している。またかいぱん(魚板を叩く)・雲版(うんぱん)(雲版を叩く)が音を響かせながら時を報じる。萬福寺の境内に佇めば、必ず仏教儀礼に出会える。合掌する・見る・聴く・感動しながら、貴重な宗教体験をしたい。

本書では范道生が作成した仏像に関しても紹介されており、幸いなことに華光菩薩像についてもP.42にわずか1頁だけであるが紙幅が割かれていたため、その箇所を引用する。

華光菩薩倚像 范道生作 Kakobosatsu
江戸時代(寛文3年)木造 像高163.5cm 伽藍堂安置

斎堂と並ぶ伽藍堂に安置されている倚子(いす)に坐る華光菩薩像である。本像を関帝像とされることもあったが、容貌魁偉と謳われた関帝像とは違い、皇帝の着衣である龍袍を着し、半眼瞑想する円満な菩薩相にあらわされている。関帝は『三国志』に登場する猛将関羽(かんう)のことで、関聖帝君(かんせいていくん)の略称である。中国では中唐頃から国難克服の守護神として、また北宋末頃から寺院における寺院護持の伽藍神として崇敬されるようになった。寛文3年(1663)に笵道生によって制作され、同9年に伽藍堂の完成とともに移された。

若干文章に違和感を覚えるが、中盤以降の内容はほぼ関羽についてである。ここでは1.華光菩薩像の容姿・特徴と笵道生の制作時期、伽藍堂に安置され始めた時期が述べられる。他の頁を見る限り関帝にまつわるエピソードや、現在華光菩薩像の前に置かれている関帝像についての紹介は残念ながらなかった。また上にあげた文章ではかつては誤認されていたという旨の一文があるが、なぜそれが起こったのかについても深堀りせず、ただそういった事実があった、という紹介に留まる。特に真新しい情報を得ることができなかったが、基本情報が像の写真とともに掲載されていることが確認できただけでも、良しとしたい。

古寺巡礼京都〈19〉萬福寺

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